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  • 執筆者の写真わせいろ

太田宏先生

更新日:2021年8月12日

国際教養学部 教授


専門

国際関係論/地球環境政治/日本外交

早稲田_太田宏教授インタビュー

今回は、国際環境政治学の第一人者である太田宏教授のインタビューです。

最もホットなトピックの一つである環境問題を研究されることになった経緯も含めてじっくりとお話を伺いました。



目次
学生時代
社会人時代
コロンビア大学時代
大学教員としての現在
学生へのメッセージ

学生時代

- どのような学生時代を過ごされていましたか?


実は大学は日本大学法学部と上智大学文学部哲学科の2つ卒業していて、一度社会人になった後にコロンビア大学へ行ってます。


高校時代はあまり勉強していなかったんですよ(笑)。体育会系でラグビーに熱中していて、ちょっとした家庭問題もあって、受験勉強もあまりせずにジャズ喫茶に行ったりもしてました。まあ、大学にいかないといけないから日本大学の法学部に入学したんですけど、ほとんど授業にでないでいて(笑)。


- そうだったんですか!


もちろん試験とかはちゃんと受けましたよ(笑)。授業にでるよりも、アパートで世界の文学とか哲学書を読んでいたという、読書三昧の生活をしていたんです。ドストエフスキーやヘンリー・ミラーとか、カミュやサルトルとか最初はよくわからなかったけど、ヘビーなものを読んでいるうちに哲学についてもっと深めたいなって思ったんです。それで、西洋哲学を学びたいと思って、上智大学の哲学科に進みましたね。


社会人時代

ー 社会人になった時はどのような職業に就かれましたか?


当時はオイルショック後の就職氷河期で、就職先のことも考えていたけれど、哲学をやっていたというのもあって、世の中を批判的にみるっていうのかな?「生きる意味は何か。」「会社の歯車になって人生終わりたくない。」そんなことを考えていたんです。高校の社会科の教師になるか、福祉関係の仕事をやろうかなと考えてましたね。


ー  そうなんですね。では、最終的にはなんのお仕事を?


それはね(笑)。親戚に日本国有鉄道(現在のJR)に応募してみたら?といわれて、それで試験に受かって採用されました。卒業論文も残しての就職だったので働きながら書き終えました。


ー  卒論とお仕事の両立、すごいです。


実際に働いてみると視野が広がり、目が開かれたような感覚がありましたね。

そんな中である日、新聞記事でカンボジアの難民を救う市民団体の活動を知り、参加してみたんです。もう一つは冷戦が「再燃」したことによる核戦争の脅威ですよね。

この2つから国際問題を意識するようになりました。


ー  核戦争が身近だったというのが想像できないです、、、。


私が小学生低学年の時はまだ地上で核実験をしていたんです。子供ながらに登校時に雨が降ると、「放射能を含んだ雨だから傘をさしていても怖いね」という話を友人としていた記憶があったんですよね。この記憶が蘇って、核戦争の脅威をを身近で喫緊な課題として捉えたんです。


 カンボジアについても伺いたいです。


カンボジア難民を救う会の活動を通じて、タイのカンボジア難民キャンプの近くにあったクロントイスラムのことを知った経験もその後の進路に影響を与えたと思います。救う会の人たちにUNICEFが発行していたクロントイスラムについての英語パンフレットを翻訳してくれと依頼されて、翻訳をしながら問題の深さを知りましたね。


そのパンフレットでクロントイスラム出身の女性が夜間学校へ行って教員の免許を得て、その後、同イスラムを出ずに自分の生まれた地で教育活動に専念したという話を知って、これは素晴らしいと。ちなみに、この女性は将来的には上院議員になるのですよ。彼女の行動に感銘を受けて自分も何かをしたいと思うようになりました。


クロントイスラムのことを知ってから、国際開発のことや長年の懸念であった核の問題についても自分で勉強しました。特に、原発から出る高濃度の放射線廃棄物の廃棄方法や管理方法が決まっていないことを知って、日本国有鉄道という国鉄職員として甘んじてはいけないと思ったんです。


なんていうのかな、定時に終わって本を読んだりも出来ていたんですよ(笑)。当時は「レールパス」っていう職員パスを使って、休日は電車に乗って読書しながら小旅行を満喫してましたからね。思索にふけったり読書に集中できるのは車中と歩いてる時、あと、トイレの中、他に何もできませんからね(笑)。だから自分の好きなことをするにはいい環境にいたんですけど(笑)。


ー  それでもアメリカに留学されたんですか!?


やっぱりいろんな社会問題を知って、何かしたいと思ったんですよね。国連職員として働きたいと思ったのが留学を決意した理由かな。そのためには最低限英語も必要だし、修士号も必要だったし、、、。あとは国際問題について日本にいたらわからないことも多いでしょ?特に、米ソ冷戦の当時は。とはいってもロシア語はわからないからロシアにはいきたくないと思ってね(笑)。日本は、日米安保条約を締結しているアメリカの世界戦略下にあるので、国際的問題や世界の核戦略や平和問題をより理解するために、アメリカにいくことを決意しましたね。


コロンビア大学時代

ー 社会人経験を経て進まれた留学先では、どのようなご経験をされましたか?


留学当初は戦争と平和問題、開発問題にかなりにフォーカスしていました。まずワシントンD.C.にあるアメリカン大学で修士を取り、博士号(Ph.D.)はコロンビア大学で取ったんです。コロンビア大学では冷戦をテーマにアメリカの核戦略について研究していたんですけど、自分が博士論文を書く資格を得た時点で冷戦が終わっちゃうんですよ。


ー すごいタイミング、、、。


でしょ(笑)。それでテーマをどうしようかなとなって、日本のODAにしようかなとなんとなく考えてたんです。


当時はアメリカでの就職を考えてましたけど、アメリカ人には英語ではもちろん、理論でもなかなか勝てない。それならば日本の問題を中心に勉強して、日本の外交を書こうと思って指導教官に相談したらだめだと、、、。


ー それは、なぜですか?


もう1年上の人がやってるからって(笑)。それでじゃあどうしようかなと、、、。


ちょうどその頃、後に副大統領になる上院議員アル・ゴアが地球環境問題について公聴会を開いたんですね。「あ、これは重要な問題かもしれない」と思ったんですよ。


勉強しているうちに米ソの核戦争による核の冬と地球温暖化に、どちらも地球規模の問題という繋がりを見出したことで、環境問題に強い関心を抱くようになりました。


ー そこで現在のご専門、国際環境政治学に繋がるんですね。


そうです。それで、日本の環境外交としての気候変動問題と国内政治の関係を合わせて論文書けるんじゃないかと思ったんですね。博士論文の題名は、”Japan’s Politics and Diplomacy of Climate Change”でした。


大学教員としての現在

- 大学の教員になられた理由は?


国連職員になろうかなと思っていたんですが、留学したのが20代後半だったので博士過程を終了した頃には、年齢的に国連職員になるための国からの支援得るには難しい状況になってたんですよ。


あとは実際に職員と話すとかなり官僚的だな、ちょっと違うなと思ったんですよね(笑)。あとの残されたのは学者の道だなと。フィールドワークよりも理論をしていたこともありましたし。


- 学者も狭き門ですよね。


そうですね。もう頑張るしかないなと(笑)


- 私は先学期、先生の講義を初めて受けたのですが100人弱の学生のエッセイにも一人ひとりにコメントをくださるのでとても驚きました。講義へのこだわりを教えていただきたいです。


私たち教員の使命は学生各自に、自分で考える能力を養うとか、それを習慣づけるとか、モチベーションを高めてあげることだと思うんです。なぜかっていうと知識は我々教員からでなくてもインターネットがあればいつでも手に入るから。


情報をどのように理解してどのように使うか、情報を使いこなす能力こそ大学で身に着けるものだと感じますね。本を読んだり、人との会話をして異なる意見を自分で比較し、どれが妥当かを考える能力を伸ばすことが重要だと思っています。


- Global Environmental Politics and Policiesは、海外大学とのオンラインディスカッションもあって、学生にはとても人気です。


海外授業とのオンラインディスカッションは、慶応大学の先生が始められて国連大学、ハワイ大学のみなさんも参加しているものです。この授業は国際教養学部の学生以外は大学院生が受ける授業なのでとても勉強になる授業だと思いますよ。


- 現在、先生が環境問題を意識して日常的にやっていることはありますか?


やはり意識はもってますよ。家ではソーラーパネル貼ってます。しかも補助金がない時にやったから、いわゆる”高い意識”をもってね(笑)。


でも、実はオール電化住宅と原発にも複雑な問題があったりするから必ずしもいいとはいえないんですが、、、。あと今年は蓄電池も使い始めました。

早稲田_太田宏教授インタビュー

- 家庭菜園もされていると伺いました。

スーパーで売ってる野菜は、ほとんど栽培していますね。私の妻がはまっちゃってね笑。初めは私がやっていたんですが、今は妻の方が私より頑張ってます(笑)。


- なんだか素敵です。

今年は7月の長雨でトウモロコシはほぼ全滅してしまいました...笑。それに今年の夏はあまりにも暑かったので手が遠のいてしまい、今は雑草が伸びています(笑)。 


学生へのメッセージ

- 学生時代にしておくと良いことを教えてください。


色んな人と話すことや小説を読むこと。小説のいいところは他人の人生を疑似体験できることです。特に古典のもので現代にまで残っている作品は普遍的な本当に考えるべきテーマを扱っているので、お勧めします。


あと、自分の殻を破ることも。対話とか人と意見をぶつけ合うことで「あ、相手の言ってることも正しいかもしれない」って自分の考え方も少しずつ変わっていくと思うんです。

それから、文章を書くということ!自分の考えを文章でうまく表現できるようにしておくことも、社会人として生きていくために必要なスキルだと思います。


趣味を見つけることも大事ですね。就職活動中に自分のしたいことを見つけるというのは難しいでしょ?だから、インターンやアルバイトを通じて色んな職種を知っていくのがいいのかなと思います。


- 環境問題についてはどうでしょうか?

環境問題も一番影響受けるのみなさんですよね。だから自分の問題として考えることがとても大事だと思います。大切なのは創造力・想像力・感情移入とか基本的な人間の能力だね。記憶や計算も能力だけど一部にしかすぎないんですよ、、、。それよりも人の痛みがわかることだったり、将来ヴィジョンとか、文字や数字では現れないことを理解する力ですね。


ある哲学者の言葉にもありますけど、どんどんエゴを大きくし、昨日までのエゴを破って自分を見つめて欲しいと思います。自分を見つめて、自分の可能性を最大限生かせるような人になって欲しい。そのために他者と会って対話するんです。


近代科学が始まってからは自然を「モノ」にしてしまった。人間の都合のいいようにしてしまっているんですよね。近代科学がもたらした良い面もあるけれど、、、。


- 問題は根深いですね、、、。


そんなに難しく考えなくてもいいんです。英語で「他人の靴に足をいれろ」っていうんだけど、他の人の立場になって考えてみるということです。これはなかなか難しいことだけどね(笑)。


- 環境問題だけでなく、生き方にも繋がります。


人の立場というけれど、やっぱり他人のいやなことばかり見えてしまうでしょ?けれど、誰でもいいところが1つあるから、他人の美点をみて関わったらいいなと思います。


読むこと、書くこと、そして対話すること。シンプルですが、自分と向き合うためにとても大切なことだと感じました。

太田先生、貴重なお時間を本当にありがとうございました!


早稲田_太田宏教授インタビュー

太田ゼミ生各人に渡されているというTime Currency。

画像を両面コピーして、一枚づつ切り取り、紙幣のようにして渡されているのだそう。

「これまでの所、受け取りを拒否したゼミ生はいませんが、もらった後これをどうしているか聞かないことにしています(笑)」と太田教授。

背面の絵は使われなくなった「まな板」にクレバスかクレヨンでご自身が描いたもの(描かれているのは、奥様と二匹の猫(既に他界)と太田先生)。価値は百万回会えるというのもので、学生を社会(あるいは更なる勉学の道)に送り出す太田教授の気持ちを表現したものだそうです。


教員プロフィール

担当科目(2020年現在)

・Intermediate Seminar

・First Year Seminar A 

・Introduction to International Relations

・Japan's Foreign Policy

・Global Environmental Politics and Policies 

・Seminar on International Relations

・地球環境問題と持続可能な社会 大学院政治学研究科/大学院アジア太平洋研究科


太田宏ゼミURL


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