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小原百葉

篠潤之介先生

更新日:2021年8月13日

国際教養学部 准教授


専門

金融論 / 協力ゲーム理論


早稲田大学 篠潤之介教授

今回は、早稲田大学国際教養学部の篠潤之介先生にインタビューしました。

日本銀行での実務経験をお持ちの先生の授業は、アカデミックでありながら、実践的な内容が詰まっています。



銀行員から研究者へ 

〜環境を自分で変える〜


ー本日はお時間をいただきありがとうございます。先生は中学から大学まで早稲田のご出身ですが、学生時代に影響を受けた先生はいらっしゃいましたか?


サークルやバイト中心の生活で、大学2年生くらいまではほとんど授業を受けていませんでした。ミクロ経済学もマクロ経済学も今でいったら成績はCでしたよ(笑)。


ただ、3年生になった時にゲーム理論を勉強し始めて、船木由喜彦先生のゼミに入ったんです。そこでゲーム理論の面白さに気付きました。船木先生は今も政治経済学部で教鞭を執られています。


ーそうだったんですね。先生は早稲田大学ご卒業後は東京工業大学に進学されていますが、そこでのご経験はいかがでしょうか?


東工大での2年間は強烈でした。武藤滋夫先生の研究室に所属して協力ゲームと呼ばれる分野を専攻したのですが、先生や研究室の博士課程の先輩から、ゲーム理論のベースとなる数学的思考や論理展開を徹底的に叩き込まれましたね。まわりは数学科とか、理系出身の人たちばかりです。ものすごくしんどかったのですが、熱心に指導していただき、本当に感謝しています。中学からずっと早稲田にいたので大学院で環境を変えたのもとても良かったです。


ーその後、日本銀行へ入行をされたのですか?


はい。影響を受けたといえば日本銀行の上司にも恵まれていました。たくさんいらっしゃるのですが、キャリアの先輩という点では、今は大学教授をされている藤原一平先生(慶応大学)と上田晃三先生(政治経済学部)ですね。もう本当に頭の良い方たちで、研究者としても超一流なのですが、たいした実績もない僕がやったことなんかもすごく前向きに評価してくれるのです。で、褒めるだけじゃなくて「俺もまだまだがんばらなくちゃ」なんて言いながら、私の倍のスピードでどんどんリサーチを進めていく。こりゃ絶対勝てないなと思いました(笑)。


ー篠先生がゼミ生をいつも褒めてくださるのはお二人の影響があったのですね。


影響されやすいから、そうかもしれません(笑)。教えてやるというよりも相手をリスペクトしながら自分も学ぶという先輩の姿勢を間近でみることができたのは、とてもラッキーだったと思います。


ー就職先として日本銀行を選ばれた理由も是非伺いたいです。


東工大にそのまま残ることも考えたんです。そこで、指導教官に相談したら、「そのまま残るのも良いかもしれないけど、『大学の世界以外知らない』というのは良いことではないから、少なくとも就活くらいしてみては」と言われました。


ー就活ですか!


とにかくリクルートスーツを着て色んな会社をみてこいと、そしたら変わるかもしれないし、変わらなくてもいい。ただ、経験はしておいたほうがいいとアドバイスをもらったんです。僕は感化されやすいので、ものすごく就活したんです(笑)。銀行から商社、メーカーまで沢山受けた中でも日銀の仕事内容はアカデミックな繋がりもあったし、面接官と話していても面白いなと感じました。あとは、仕事の頑張り次第で留学できるということも魅力でしたね。


ー大学院への進学と就職で悩む学生も増えていると感じるのですが、先生からアドバイスをいただけますでしょうか?


もちろん人によって違うとは思うのですが、進学するなら学部とは環境を変えた方が良いと思います。思い切って海外に行ってみるとか。学部と院の勉強って量も質も違うんですが、同じ場所にいるとどうしても大学の延長線となってしまいがちだと思うんです。せっかく行くのであれば、あえて自分にテンションをかけることがいいと思います。


もう一つは、大学院に行くタイミングもよく考えて、自分のベストな解を見つけることが大事だと思います。今は、社会人大学院やMBAなど、社会人になってから大学院に行く機会も多くありますが、それだけにベストなタイミングや期間は人それぞれだと思います。例えば、僕の場合は日銀に入って2年間留学する機会を得たんです。でも、そもそも院卒だし、あまり長く職場を離れてしまうと仕事ができないから、留学は2年間で帰国してもドクターをとれるところと決めて行ったんです。


ー長期間仕事を離れるのは、なかなか勇気が必要だと感じます。


期間を決めていると行くことができる場所も限られてくるんです。ただ、留学先でドクターを取らずにまた別の大学院に行くといった余裕はありませんでした。

だから、僕からのアドバイスとしては、どの大学・どの専攻にどのタイミングで入るかを、自分自身の目的と事情に応じてちゃんと考えること。進学はもちろんオススメします。でも、なんのために行くのかという目的を明確にすることはとても大切だと思いますね。



リアルワールドの情報が詰まった授業 

〜社会人で必要なスキルをアカデミックに取り入れる〜


ー授業運営で工夫されていることはありますか?


講義形式とゼミ形式の二つで少し違います。講義形式では、数値例やグラフを使って話に具体性を持たせるようにしています。あとは、授業準備を通して自分も学ぶことは大事にしていますね。というのは、大学に入ってからは論文を書くことが仕事なので、日銀にいた時のように日々の経済やマーケットを追うことはなくなりました。


けれど、やはり実際の経済は大事です。なので授業では最新の日本経済や金融市場の状況をいれるようにして、自分でも常に最新情報をフォローするようにしています。


ー先生の授業では、Excelを使ったグラフの作り方も教えていただけたのがとても勉強になりました。社会人時代のご経験が反映されているのでしょうか?


そうですね、僕は日銀に入るまでExcelは一度も触れたことがなかったんです。で、入社してすぐに景気判断を担当する部署に配属されたのですが、「Excelとか使ったことないんですが、宜しくお願いしまーす」なんて能天気に自己紹介したら、そこはほぼすべての仕事がExcelをベースに進んでいく部署で、衝撃をもって迎え入れられました(笑)。ここでもすごく丁寧に教えてもらったんですね。Excelはちょっとしたことで効率化されるのでそういうティップスはみなさんとシェアできたらいいなと思っています。


ーゼミについてもお話を伺いたいです。


ゼミの場合は僕も一緒に勉強している感じです。ゼミで使っているデータ分析ツールのRもみんなと学んでいますよ。やっぱり学生さんに解いてもらうと僕が思いつかなかった解き方を示してくれるから面白いですよね。


一年生のゼミ(Seminar 1A)では高校レベルの数学の教科書をやっているのですが、分数の計算ひとつにしても学生に解いてもらうと新しい発見があるんです。


ー正解しなくてもいいから、とにかくやってみるのが大事という授業で先生がおしゃっていた言葉も印象的です。


あとは、授業では読み上げ原稿は作らないようにしています。読み上げ原稿を作らないのは日銀時代に習慣づいたものです。日銀では最後はプレゼンして終了、という仕事が多かったのですが、試行錯誤の末、読み上げるスタイルは自分には合わないと気づきました。人それぞれだと思うのですが、私の場合、原稿を読んでいると、自分が何を言っているのか自分でも意味不明になることが少なくありません(笑)。途中で軌道修正するのも難しいですしね。あと、原稿を作るとその時点で満足してしまうという面もあります。あとは、もっと英語がスラスラ話せたらなおいいんですけどね(笑)。


ー先生の研究内容についても伺えますか?


大きく分けると二つあります。


一つは、金融市場、特に株式市場の構造変化や金融政策との関係で、これは日銀時代に培った問題意識という面が強いです。


もう一つは、早稲田や東工大で勉強していた協力ゲーム理論です。最近、関連論文を読んでいく中でかつての指導教官である船木先生の論文に行きつくことが多く、面白いなあと感じています。二つのテーマは今のところはそれぞれ独立なものとして研究していますが、今後、どこかで二つが繋がれば良いなと思っています。



学生に向けて 

〜組織に依存しない個人へ〜


ー大学生生活を振り返って、学生にアドバイスをいただけますでしょうか?


何に対しても周囲に流されずに自分の頭で考えるクセはつけた方が良いと思いますね。早稲田って勉強だけでなく、小説とか音楽とか映画とか、いろんな分野で活躍されている先輩がいることからもわかるように、なんにでもトライできる環境がそろっていますよね。この点において早稲田は日本一ではないでしょうか。


ただその一方で、気づかないうちに周囲に流されてしまうリスクも結構高い。正直、流れにのっていれば就職活動くらいまではうまく行けちゃうケースも少なくないと思います。ただ、まわりに合わせるとか、乗り遅れないようにするという観点で自分の行動を規定しまうのは、長い目で見ると大変危険なことです。


何をするにせよ、まずは「自分自身はこう考えた、だからこうしてみよう」という方針を立てることが大事かなと思います。あとは、小説とか映画をもっと観といたら良かったなとは思いますね。と言うのは、20代前半に触れたものって記憶に残るんです。それに社会人になると時間がないから「目的」をもって観に行ってしまうんですよね。だから、まっさらな気持ちで衝撃を受ける体験は貴重だと思います。


ー確かに、私自身、他の人がやっているからという基準で行動する傾向がある気がします。


あと、就職して社会人になったら、精神の健全さを保つためにも、「何かあったら辞めればいい」くらいの気持ちをどこかで持ち続けることが重要だと思います。しかし、これは適当にやれということでは全くないわけですね。むしろ仕事を通じて学ぶことは学生とは比較にならないほど多い。


しかし、辞めないことを前提にしてしまうと、無意識に組織の目標に向かって自分の行動を同一化させてしまう面があると思うんですよね。例えば、言いたいことがあっても空気を読んで我慢したりとか。私自身も多分にありました。組織内でのポジションが徐々に上がったり、ライフステージが変化するなかで「何かあったら辞めてもいいや」という気持ちをアップデートし続けるのって結構難しくて、意識的に視野を広げるとか、あるいは会社を離れても評価される実力をつけるといったことが必要かもしれません。


いずれにせよ、精神的にもそう振る舞えるようになると自分の言いたいことが言えるし、部下からも本当の意味で信頼されると思います。そんな気持ちを持ちながら、結果的に辞めないで唯一無二の存在として活躍し続けるなんて、とてもかっこいいではないですか。まあ、私は辞めてしまいましたが(笑)。早稲田大学っていう看板も社会に出れば、特別ではなくなります。そういう看板がなくても、「自分」で生きていけるようになってもらいたいと思いますね。私もなるべくそういう存在になりたいなあと思っております。


組織に所属しながら、個人としても力を身につけていく...まさに先生のキャリアから学びとることができます。

本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!



早稲田_篠先生

出張先のニューヨークでの一枚。部下の方と2人で20件ほどのヘッジファンドや投資銀行をまわって議論をされたそう。「写真に政治的意味はないです(笑)」


教員プロフィール

HP


ゼミ生運営 インスタグラム


担当科目(2021年現在)

・日本経済論 政治経済学部

・Introduction to Microeconomics 国際教養学部

・Japanese Economy 国際教養学部

・International Role of Japanese Business 国際教養学部

・International Monetary Economics 国際教養学部

・Seminar on Economy and Business 国際教養学部

・First Year Seminar A 国際教養学部

・Economy and Communication 大学院国際コミュニケーション研究科







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