国際教養学部 教授
専門
音声学 / 音声習得 / 音声認識
今回は早稲田大学国際教養学部の近藤眞理子先生にインタビューしました。普段当たり前に話している母語の発音に対する発見など、音の問題に対して科学的に研究されている先生です。この機会に言語学の面白さについて覗いてみませんか?
教員の道か、大学院の道か
〜決断の連続〜
ー本日はお時間を頂き誠にありがとうございます。まず初めに、先生は早稲田大学文学部ご出身ですが、卒業後の進路はどのようにお決めになりましたか。
私は第一文学部を卒業後、教育学部の更に上にある専攻科というところに進学しました。確か教育学部に大学院が設置された後に統合されたのでもうないのですが、そこは英語と国語の高校の教員免許1級を取るところだったんです。
ー初めて知りました。では教員を目指されていたのですか。
実は私は元々教員を目指していたわけではなく・・・。というのも、4年生の途中から教員になろうかなと思い始めたんですね。一方で大学院に行きたい気持ちもあって。
どちらにしても準備期間が必要だったので逃げたというか(笑)。教員になるか大学院に進むか考え直してみようと思い、専攻科に進学したんです。
ーそうなんですね。当時の先生で印象に残られている方などはいらっしゃいますか。
そこで出会った中村明先生にお世話になりました。今の私の専門分野とは全く違うのですが、文体論がご専門の先生でした。恐らくみなさん本を見たことあるんじゃないかな。ご定年を迎えられてしばらくたちますが、今も積極的に執筆をなさっていて、岩波書店や三省堂とかで年に一冊か二冊、本を出しておられます。主に日本の小説の文体について研究されています。
ー精力的に活動なさっている先生なんですね。
実は私、文学を研究の対象にするということに対してそこまで興味はないんです。本を読むとか小説を楽しむのはいいんだけど 、そこで終わっちゃうのね(笑)。しかも当時私は英語を専門としていて、中村先生は国語の分野だったので本当になんとなく取ってみたんです。そしたら非常に奥深くて、勉強になることも多く「文体論を学ぶってこういうことなんだなあ」と思いましたね。その後海外の大学院へ行くときに推薦状を書いていただいたり、今も私が本を出版するときに連絡を差し上げたりなど、交流が続いています。
ー素敵ですね。次に、先生が海外の大学院へ進学しようと思ったきっかけをお聞かせ下さい。
実は専攻科を卒業した後、海外の大学院へ行く前に高校の教員を三年ほどやっていました。当時文系の大学院に進学できる人は研究室に一人か二人程度だったので、とても敷居が高かったんですよね。だから迷いながら教員をやっていて・・・今考えるといい先生とはいえず、当時の生徒には申し訳ないです(笑)。
ーそんなに少ないんですね!そこからイギリスの大学院を選ばれたのにはなぜですか?
当時志望していた仕事に年齢制限があったんですよね。日本の大学院を卒業するには二年間かかってしまうので修士を取る期間が短いイギリスの大学院へ行くことに決めました。場合によってはまた高校の教員に戻ってもいいかなとも思っていたんだけど、向こうで専門を変えて博士をとるまでに長くなってしまったこともあり、気づいたら研究の道へ進んでいました(笑)。
言語学の奥深さについて
〜言語学は理系なの?〜
ー続いて先生の研究についてお聞きしたいです。私自身、留学生に日本語を教えている中で言葉の難しさにぶつかってます。先生は言語学をどうとらえていますか?
言語学に興味を持つ学生は外国語が好きという人が多いんだけど、実は言語学は理系の科目なのよね。一緒に共同研究している方は工学部の人が圧倒的に多いです。コンピューターを使って音の物理的な解析などしてます。頭のなかでどう言語を覚えて、理解しているのかなどの研究をしています。
(EMAという舌と唇の動きを計測する機械にはいって実験しているご様子)
ー言語学には理系要素があったんですね。イメージが変わりました。
あと母語を教えるっていうのは難しいのよね。挨拶とか御礼の仕方とか私たちが自然と日常的に使っているのを意識的に外国人に伝えるのはとても難しいです。だから外国語を習うときに母語話者の先生を求めなくなったのは大きな変化じゃないかな。スペイン語を習いたかったら、スペイン人の先生じゃなくて日本人の先生のほうが分かりやすく説明できたりします。
ー確かに言われてみればそうですね。続いて研究内容の深堀になるのですが、昔使われていたアクセントや発音は記録がない中どう研究されていますか。
音声記録が残っていない時代の発音は、推測することしかできません。古い文献、例えば小説などで「どこどこの人はこう言っていた」という記録で推測したり、世界
の言語の音の変化のパターンなどから推測したりします。言葉は何百年もの間に世界中でたくさん生まれたけど、人間の聴音器官はそうそう変化しません。そういったものを基に、単語の発音の変遷をたどっていきます。
ー地道な研究が求められるんですね。発音に関連して、よく日本人が英語の発音に自信を持てないという話を聞きますが外国人の場合もあるのでしょうか。
母語や話者の性格にもよるんだけど、そのケースは外国人でもあると思います。「日本語は英語に比べて音の数が少ない」というけど、それは私たちの感覚なのね。結局母語にないことを発音するのは全部難しいと思います。英語の場合、母語話者じゃない話者の方が圧倒的に多いでしょ。だから無理にアクセントを修正する必要はないんじゃないかな。現に今、どのくらいの訛りまでだったら通じるのかみたいなものを研究しています。
授業について
〜音声学を学ぶゼミ〜
ー授業についてお聞きしたいと思います。オンライン授業で先生はどのような工夫をされていますか。
歴史や経済学と違って言語学って高校までで勉強しない分野なのよね。今まで扱ってきた言語を全く違った観点からみるのが言語学なので予習・復習はしっかりしないとついていきにくいかな。あと私は1年生の基礎演習以外は出席とらないのよね。出席していても、授業に積極的に参加しないで、ぼーっとしていたら意味がないでしょ。それから出席率と成績って正比例するからね(笑)。だから主体的に学んでくれる人があっていると思います。
ー先生はゼミも持たれているかと思いますが、どういう人が多いのでしょうか。
基本的には音声の研究をしたい人が多いですね。日本語を含めた言語教育に興味がある人もとっています。最初の学期では言語習得の理論を扱うことが多いです。どこかの学期で統計もやります。調査の結果を客観的にどう伝えるかが大事で、それをするには統計はどうしても必要ですからね。みんな嫌がりますが(笑)
ー最後に先生は海外でも教鞭をとられていましたが、先生の目に早稲田生はどううつっていますか。
一般的な話をすると早稲田ってとても良い大学だと思います。授業料の元がとれる大学です(笑)。例えば、早稲田の図書館って本当に充実しているんです。新聞、文献などほぼ早稲田は提携しているので学生さんにはもっと使ってほしいと思います。
あとは授業でもっと積極的に発言してほしいかな。海外の学生くらいもう少し図々しくなっていいと思います(笑)。
今回のインタビューを通じて言語学へのイメージがガラッと変わりました。普段何気なく話している母語も研究することの奥深さや楽しさをこの短い時間でも感じることができました!近藤先生、お忙しい中ありがとうございました!
教員プロフィール
担当科目(2021年3月現在)
English Phonetics and Phonology 01(国際教養学部)
Acoustics and Auditory Phonetics(国際教養学部)
Seminar on Communication 07(国際教養学部)
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