文化構想学部 教授
専門
野外・環境・持続可能性教育/地域研究/体験学習/社会人類学/社会学/地理学
今回はアマゾン川をカヌーで下ったり、ペーリング海峡を渡ってロシアからアメリカに渡ったり・・・教育者としてご活躍されているだけでなく、冒険家としても長年活躍されている高野孝子教授のインタビューです。
特にサステナビリティ分野の科目で学生から多くの支持を集める高野先生ですが、今回はあまり知られていない早稲田大学時代のお話や、サステナビリティという研究テーマに至った経緯などじっくりお話を伺いました。
学生時代について
―早稲田大学の文学部をご卒業されていますが、大学生活の中で現在の先生ご自身に影響を与えたものはありますか?
うーん、やっぱり一番大きかったのは一年間のアメリカ留学ですね。当時はネットが存在していなかったので日本とのやり取りは手紙か国際電話しか手段がなくて、、、。だから目の前のことに没頭できる環境でしたね。それが私にとって一番学生時代の中で影響が大きかったですねえ。
―留学は先生にとって一番初めの冒険でしたか?
一番初めの冒険は小学校三年生の時ですね。冒険は「その人個人にとって未知の世界に一歩踏み出すこと」と私は定義していますが、小学校三年生の私にとっては誰にも言わずに街を出るってことが大冒険だったんです。隣の駅まで行っただけなんですけどね(笑)。
―なんだか可愛い冒険ですね(笑)。学生時代の冒険についてご両親はどのように感じていましたか?
心配しながらも、「あなたなら大丈夫」という信頼の元いつも送り出してくれていたと思います。今でも覚えているのは母に「アマゾン川を下る」と伝えた時、間をおいて「それは危なくないの?」と真顔で言われたことかな(笑)。それでも応援してくれていました。
あと、アラスカの氷の上で私が結婚式を行った時、今まで旅中にお世話になった人を沢山呼んだんですね。そしたら初めて父に「おまえがどんな風に旅をして、何のために旅をしているのかわかった気がする」と言われましたね。現場で何が起きているかわかっていなくても、両親は常に一緒に旅する人生を楽しんでくれている感がありますね。
―ほっこりします。学生時代の勉強面についてもお聞きしたいのですがサステナビリティという研究テーマはいつから興味があったのですか?
大学院生の時に参加したイギリスの三カ月プログラムがきっかけかな。元々私は早稲田の第一文学部というところで社会学を勉強していました。やっぱり人に興味があったんですよね。それに当時は、そもそもサステナビリティという概念は存在しませんでした。三カ月の間色々な国の人たちと自然の中で暮らす生活をした時に、初めて人は自然に生かされているということを体験的に理解したのが大きかったです。
大学院までいっている人間がようやく概念の世界から飛び出して体験的に理解したという、、、(笑)。これを機に、自分だけではなく他の世代の人にも自然の中で深い体験をする大切さを伝えたいと思って任意団体を始めました。そういう活動を通して「サステナビリティ」という言葉に出会って段々とこれが自分のやりたい専門分野だ!と確信していった感じですかね。
(イギリスでのワークショップの様子。海外の学生からも絶大な信頼を得ているのが分かります。)
-ではサステナビリティという学問分野は、具体的にどのような研究が中心となっていますか?
学問的にみた場合、野外教育・社会学・心理学・哲学・環境学・民俗学、みたいに「サステナビリティ」というテーマから細分化することができて、多岐に渡って勉強しています。
―なんと!思っていた以上の知識が必要になるのですね。
そうそう。でも私は世の中って分断された知識だけだと動けないと思っていて、何かをするには色々な側面からの知識が必要だから、そうなって当然なんだよね。専門家だけではなくて、全てを結び合わせて考えられる人間がこれからはもっと必要になってくると思います。学問的な専門分野をぎゅっと狭めるのではなくて、あちこちの専門と繋ぐことでようやく世の中に生かすことができるからね。
Cゾーンについて
*Cゾーン:comfortゾーン、その人が快適に安住できる安心した空間。通常誰しもそこにいるが、そこにいるだけでは成長が難しい。
ー高野先生はよくCゾーンについてお話されていますが、Cゾーン*から踏み出すにはどうすれば良いのでしょうか?
うーん、時には半強制的な環境におかれてCゾーンを踏み出すこともあるんじゃないかな。例えば、オンライン授業もそうだよね。コロナの影響で自然と授業体系がオンラインに切り替わって、、、大変なこともあるけどやってみたら意外とできたよね(笑)。
ー確かに、やってみて初めて分かることってたくさんありますよね。一歩踏み出すことって人によっては大きな挑戦だと思うのですが、彼らに向けてアドバイスはありますか?
そうだね、私は、Cゾーンを超えたいと思ってる人たちは自然と超えるんだと思う。そして超えたい気もするけど超えない人は背中を誰かに押してもらいたいんだと思う。それぞれ理由をつけて一歩踏み出さない学生が多いけど、そう言う時に、いいじゃん!かっこいい!ってポジティブに肯定してくれる人がどのくらい周りにいるかが大事だと思うの。
最初から出来ないっていうマインドセットから入るんじゃなくて、それをできる!って感じさせてくれる人を周りに置くこと、そう言う人脈を作ることが人生を豊かにすると思います。
授業について
ー高野先生の授業は特に参加型や体験型のものが多いと思いますが、コロナ禍においてどのような工夫をされていますか?
オンラインでも体験型の授業を取り入れなければと思って色々挑戦してます。前期にやって面白かったのは、学生にオンデマンドの授業を自分たちで作ってもらってその授業を他の学生達に視聴してもらうということです。その視聴後には、学生たちが授業のディスカッションをリードしていき、授業を主体的に運営していきます。
あと課題として自分の住んでいる地域を1時間くらい歩いてもらって、授業で共有とかしましたね。ライブ授業で共有してみると地域間の共通してるところや違っているところが見えて面白かったねえ。
(高野先生のご自宅から見える景色。今はご自宅からオンライン授業を届けているようです。)
ーオンデマンド授業を学生が作るのは新しいですね!オンラインになって友人作りに苦労している学生も多いと思いますが、受講生の繋がりはどのように維持されていますか?
2020年前期の反省はオンライン授業だと、画面上でプツって切れてしまい友達ができないと言われたことでした。
だから最初から強制的にグループを決めて連絡先を交換してもらいました。かつオンデマンド授業が終わったあとにグループで考えたことを交換し合ってもらい、そこで出てきた意見や感想をMoodleに出してくださいってしたんです。そしたら自然とグループ内で話す時間が生まれて仲が深まるかなと思ってます。
学生へメッセージ
ー学生時代にしておくべきことを教えてください!
全然自分と違う人と会うこと。学生だけで一緒に時間を過ごさないでもっと違う職業の人と会ったり、おじいちゃんとか年齢も全然離れてる人と会ったりすることがすごく大事。私が思うのは早稲田生は思考が似てるってことなのよね(笑)。多くの人が当たり前と思っていることが同じ。
だけどね、社会に出てみると私たちが思ってる当たり前って全然当たり前じゃないことに気づくの。だからこそ色々な「当たり前」を知るために学生時代はたくさんの人と会うことが大事だと思います。
ー率直にそれはなぜですか?
それはあなたたちは社会を作っていく人達だし、より良く世界を変えていける人達だから。自分より辛い環境に置かれている人を知るには、そういう人たちと出会わなければならない。この体験が少しでもあれば、自分がなにかを決められる立場になった時に自分と違う環境におかれている人の立場も考慮して決められる。それって今じゃなきゃできないからこそ、どんどん価値観や考え方が違う人に会って欲しいですね。
ーCゾーンの話でも出てきたように人との関わり、それも自分とは違う人との関わりが重要なんですね。コロナ禍において学生の中でも新しい人と出会う機会が減ってしまっていますが、このような状況下において学生が意識すべきことはありますか?
今を生きるしかないってことかな。コロナだろうがなんだろうが今は今しかないので、“今を生きる”。時間は流れていくので、今の状況で何をするのか考えて動いていくくことをお勧めします。でももちろん、動きたくても動けない時もありますよね。そういう時は無理しないで過去を振り返ってそこから学ぶことをやってみてください。
学生であり続ける限り、どんなことからも学ぶという姿勢を持って欲しいです。もちろん本を読むとか旅をして欲しいって私は学生に対してよく言うけど、これは人から言われてやる事ではないよね(笑)。広く深い人間になれるよう、学びの姿勢はどんな状況でも持ち続けてみてください。
(こちらもご自宅から見える景色。とても美しいですね)
ー今できることをやって多方面から学ぼうとするということですね。それでは最後に高野先生の好きな言葉を教えてください!
「Think big, start small」かな。突然富士山見ちゃうと、「あぁ登るのはとても無理」って思うけど、目の前の一歩を踏み出せば必ず頂上には行ける。つまり、すごく大きく考えて、でも小さく始めるってことです。
あとは、There are no passengers on Spaceship Earth. We are all crew.
~Marshall McLuhan, 1964っていう一文もお気に入りです。 日本語にすると「私たちは宇宙船地球号の乗組員である。乗客ではない」と訳しますが、誰かの船にのって身を任せるんじゃなくて乗組員のひとりとして船を動かすんだっていう言葉なんですね。自分で動くことは人生の中で大切にしている考え方です。
多くの自由な時間が与えられ、やれることがたくさんある大学生だからこ様々なジャンルの人と会って、色々な経験をつみたいと高野先生とインタビューを通して思いました!
冒険家であり教育家でもある高野先生ならではのメッセージは大学生が直面する問題を学問的にも精神的にも解決する助けになるだろうと思います。
高野先生、貴重なお時間を頂きありがとうございました。
教員プロフィール
担当科目(2020年現在)
・基礎講義1
・ローカル・ガバナンス論
・サステナビリティ論
・社会実践論
・社会構築論系演習
・卒業研究
・共生社会論ゼミ5(サステナビリティを目指して)
・世界が仕事場
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