株式会社 電通
クリエーティブ・ディレクター / CMプランナー
今回は、早稲田大学の学生なら一度は受けたい人気講義「プロフェッショナルズ・ワークショップ(広告)」をご担当されている高崎卓馬さんに取材をしました。
「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」をはじめ、国内外、多数の受賞歴を持たれる高崎さんは、早稲田大学法学部のご出身です。
高崎さんの大学時代や、入社後のクリエイティブを生み出すヒントを得たい方は必読です!
株式会社電通 PRソリューション局の大八木元貴さんにも取材のご協力を頂きました。
大学時代
~表現をみせることの面白さに触れる~
- 高崎さんは、在学中にも映画サークルに所属されていたということですがいつ頃から脚本などに興味をもたれるようになったのですか?
入学後にサークルを探していてなんとなく入ったのが映画サークルだったんです。自主映画を作っていたんですが、映画をつくっている人同士でお互いの作品を見せ合う感じしかなくて、他の人に見てもらうことができていない感じがありました。そこで友人と考えて、芝居なら知り合い以外の人にも見てもらいやすいのではないかと思って劇団のようなものをつくったんです。友達の友達の友達まで声をかけてお客さんになってもらって、自分の考えたものを観てもらうのが楽しくて、芝居にハマりました。
- 脚本は大学入学前から書かれていたんですか?
高校の時は散文っぽいものを書き散らしていました。自分の中にある衝動を吐き出していたという感じで、誰かに見てもらうことを全く意識せずに書いたものですね。だから、人に見せることを意識して書いたのは大学に入ってからです。
昔から、小説を書くことやお話をつくることは好きだったので、そういった自分にあったベースがサークルで活きた気がします。つくったものを人に見せて、自分の予想とはズレた反応が返ってくることも含めて面白かった。人が自分の創作物をみることの楽しさを感じたのはこれがきっかけだったと思います。
- ご自身が表現する演者になりたいという考えをもたれたことはあったのでしょうか?
芝居で食べていきたいということはあまり考えていませんでした。就職活動では広告だけでなく、出版社や映画会社も受けました。色々見た結果、学生の頃は広告の仕事が一番クリエイティブに感じたんです。
当時は広告のCMの監督が映画監督になることが多かったことも入社を決める上で大きかったと思います。それで、電通に入社したらめちゃくちゃ面白くてハマっちゃったんです。
広告代理店に入社して
~表現の怖さと向き合い考える力~
- 広告のお仕事で1000以上のアイデアを出して、やっと5つのアイデアが通ったというお話を聞いたことがあります。高崎さんは入社後にアイデア出しに苦しんだご経験はありましたか?
たくさん考えることは案外簡単なんですよ。ただ、いいアイデアが何か自分で選べるようになるまですごく苦労しました。実際につくって、外に出してみて、「あれ?こうした方がよかったかも」の積み重ねで自分の中の基準ができていくんです。つまり、沢山の案から宝物を見つけるための選ぶ力が肝心ですよね。
- 選ぶ力は上司の方からアドバイスを受けながら培われていったのですか?
他人に任せてはいけないんです。先輩が選んだ、クライアントが選んだ、世の中が選んだっていうのはもちろん大切だけど、あの人はこれがいいと思うかって想像していても絶対に分からないから、自分の基準をつくることが大事なんですよね。「高崎さんがいいと言っているから」ではなくて、自分がこれがいいと思う基準を持って、理由も言えるようになることです。
- クリエイティブをされている方は美大出身の方が多い印象があるのですが、早稲田からクリエイティブを目指している学生にアドバイスをいただけますでしょうか?
絵が上手ことと人を想像する力っていうのは少し違うんですよね。確かに、絵が上手い人はよく観察をしているから、その分の経験値は高いと言えるかもしれないです。入社後最初の5年とかは美大卒の同期は群を抜いて表現力が高くて、絶望するくらい差があった。でも、その差はすぐに埋まるんですよ。
表現するって考えることだから、人間をよく見て考え続けることです。一番大事なのは、自分がつくったものが人を傷つけてしまうかもしれない怖さを知っておくことです。そうすれば、必然的にたくさん考えることになりますからね。
- 高崎さんのご著書「表現の技術」にある「人を笑わせるものを笑いながらつくってはだめだ」という一文が印象的でした。
それは戒めに近いんです。自分が面白いと思ったものが隣の人も面白いと思っているだろうと考えてしまっていることがあるんですよ。だから、「疑うこと」がとても大事ですね。人から聞いたこと、世の中が言っていること、そして、自分の考えを疑うことができる才能。つまり、客観力ですよね。
でも、早稲田生って主体性が強い人が多い気がします(笑)。自分もそうなんですけど。客観力の高い人に憧れるんだけど、これを後天的に身につけるのって結構難しいと思うんです。そんな時に擬似的に客観性をもつ手段として意識的に疑うことが有効だと感じます。
- 自分の想定した通りの反応をを得るのはとても難しそうに感じます。
そうですね、アウトプットが一番のインプットになると思います。他の人がつくったものを見てインプットするよりも自分のつくったものを発信してできるインプットの方が大きいんです。実際に自分の書いたセリフを俳優さんが読むと数倍よく聞こえることとかあって、そういう時、めちゃくちゃ嬉しくなりますね。
-広告は右脳的な表現が多いと思っていましたが、講義を受けていると表現方法にも法則や手順があって左脳的でもあることが分かった気がします。
基本の手順はもちろんあります。ただ、人は手順やフォーマットに感動しているわけではないので、手順の中のディテールにこだわることも大切です。それが感情に影響を与える表現に繋がります。
でも、左脳的ではなく右脳っぽくやっている人もいますね(笑)。入社してすぐの打ち合わせで「ここに犬入れたら、かわいいんじゃない? あ、かわいいっすね」みたいな会話とかあって、すごい混乱したことがあります(笑)。僕、犬のセンスないなって(笑)。
大八木さん:下積み時代の話が面白いんだよね。
いやめちゃくちゃ苦労してたからね(笑)。チームの一番下っ端にいるときは、とにかくたくさん考えて、テーブルを自分の考えたものでいっぱいにしておいて、皆が自分の作ったもので話し合うという状況を作るしかできなかったですね。世の中のことも、相手の会社のことも、この予算で何ができるのかも分かってないから、企画会議で何を企画にすれば良いかも決められない。若いうちって材料を提供することしかできないんですよ。
それに、そういう役目だってことも分かっていないからとにかく悔しいのよ。自分が寝ずに考えたものを、皆「面白いね」って言ってそのまま横に置くみたいな感じだから。自分があんまり良いと思ってないのが形になっていくことを経験するんだけど、じゃあ自分の企画の方が良いのかって聞かれると、良いような気もするんだけど良いかどうかもあんまり分かんないっていうね。そういうもがいてる時が、しばらくあるよね。
- それが変わった瞬間はどんな感じなんでしょうか?
瞬間、じゃないかもね。徐々に、いつの間にか泳げるようになってとか、いつの間にか英語喋れるようになるのと近いかもしれないね。人に対する好奇心を失わないでいると、もっと面白くしたいし、もっと皆に動いて欲しいって思うから、それが企画するエネルギーになるよね。
ちょっとした状況の変化で皆変わる。何であんなに好きだった人を、殺したいほど憎んだりするんだろうとかさ、面白いじゃない。あんなに好き好き言ってたのに、急にもう嫌いとか言ってるよ~とかさ(笑)。あんなに好きだったのに何で急に嫌いになるんだろう、自分、とかもあるよね。
学生へのメッセージ
- 高崎さんの記事で「昔は自分で情報を選べなくて色んな情報が流されるのを受け取ってたけど、今は広告でも自分に興味のあるものばっかり出てきて、ずっと同じ情報に包まれている世の中だから想像力が低下してきている」というお話に強く共感しました。
やっぱり早稲田にいるくらいだから、基本的にみんな地の頭が良いと思うんですよ。それを何のために使うのかって言うと、テストのためだったらここにいる理由ないと思うんですよね。自分の力で考えるとか、自分の言葉で考える人がたくさんいる方がいいなと思う。
僕、九州から大学で東京出てきて、芝居やったり映画やったりしてたけど、そこで映画のことや演劇のこと、将来のこととかを仲間と話してたんだよね。それが自分の中で大きな財産で、自分の言葉で会話をする力はここで身につけたなあって感じがするんですよ。真面目に授業とか受けてないタイプだったけど、たまにすごい面白い先生がいて、話してると、やっぱそういう部分をグサグサ刺してくる。自分の言葉で喋れてる人が沢山いて、かっこよかったし、そうなりたいと思ったし、そういう人たちとは自分の言葉で話してないと話せないから。目標値みたいな人とたくさん出会えることが早稲田の一番好きなところで、今もすごく変わらない気がするんだよね。
- これから社会人になる学生に向けてメッセージをいただけますか?
他人に評価されるためにやらないで、自分の心の声を聞いて動く人がいっぱいいると良いと思うんですよね。他人に褒められるためにやってると、心折れちゃうしね。人と同じように進む必要はないから。20代後半でピークがくる人もいるし、50過ぎてくる人もいるし、死ぬ間際にピークくる人もいるし、ひょっとすると死んでからピークくる人もいるじゃない。今、みんな同じように小中高大学を出て就活してって進んでいくから、横並びじゃなきゃいけない感じがするし、人と比べる感じが強くなっちゃうと思うんです。
けれど、社会にでてから先は比べる基準ないので関係ないから、自分の20歳上とか30歳上の人と比べてた方が良いと思うんだよね。同期の中で誰が偉くなったかとかはあんまり関係なくて、自分がどれだけ気持ちよく機嫌良くいられるか。他人の尺度で気にしてると、どうしてもちっちゃくなっちゃうし楽しくなくなっちゃうから、自分の中で尺度を持ってないとね。
ただ、学ぶ必要はあるけどね。同期だろうと、年下だろうと、すごいやつからは何か学んで吸収した方が良い。人と出会って、人から色んなもの吸収して自分というものが出来上がっていくから。この人の企画の作り方すごい、この人のプレゼンすごい、この犬のおじさんの靴下の履き方すごい、とか(笑)。みんなの良いところをスポンジのように吸収して、自分を作っていければいいかなって気がしますね。
アフタートークへ 〜
取材終了後の雑談を掲載しています。本記事と併せて、ご覧ください。
教員プロフィール
高崎卓馬 電通HP
主な担当科目(2021年現在)
グローバルエデュケーションセンター人間的力量科目
プロフェッショナルズ・ワークショップ (広告)
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